こんにちは。メブコです。
さて、私は1年を通して常に何かしらの本を読んでいるわけで、面白い本にもたくさん出会ってきました。
その中でもですね、これは私が語らねば、たくさんの人に読んで欲しいという作家さんがいるのです。
今回から不定期に連載する「メブコの作家紹介」では、筆者の好きな作家さんの代表作からピックアップした場面を掘り下げ、作家さんの魅力を伝えるという試みをしていきます。
その作家さんの作品を未読の方には興味を持っていただき、
私と同様に既にファンだという方からは首がもげるほどの同意を得られるような
そんな記事を目指していきます。
記念すべき第1回は、ヨネダコウ先生です。
今回はあくまで物語の一部をつまんでのご紹介となります。
物語の展開に関わる重大なネタバレにはならないと思いますが、まっさらな状態で初読したいという方はご注意ください。
心理描写が秀逸ってどういうこと?
本のレビューでは、よく「心理描写が秀逸」と書かれているのを目にしますよね。
ヨネダ先生の魅力を1つ挙げなさいと言われれば、私も間違いなく「登場人物の心理描写が良い」と言うでしょう。
一括りに心理描写と言っても、使い手によって様々なニュアンスがあるとは思うのですが、私は、「心理描写が秀逸」という感想を主に以下の2つの意味で使うことが多いです。
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主人公のこころの動きが順を追って、深く、丁寧に描かれている
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登場人物の感情を読者が手に取るように分かる、息をするように自然に読み手の心に感情が入ってくる
そしてヨネダ先生の作品を読んでいる時、私の頭の中は
「言葉では簡単に説明できないけれど、この人の今の気持ちどうしようもなく分かる...」
「うまく言えないけど、なんかこの感情知ってるぞ」
ということの繰り返しなのですよ。
感情の名前を考える前にむき出しにされた何かが胸に入ってきて、胸の内側を柔らかい羽根でくすぐられたような、時には自分の吸い込んだ空気が吐き出せずに体の中でいっぱいになっているような、そんな感覚になるんです。
誰しも
「言われた直後は何とも思わなかった言葉が、
帰宅して、自室で布団に入って暗い天井を見上げた途端、何故か無性に悲しくなって、涙がこぼれてきた」
というような、"悲しい"だとか"苦しい"のような一言では言い表せない感情に襲われたことがあるのではないでしょうか。
ヨネダ先生の作品の登場人物からは、表情や会話の間、時にはちょっとした小物の使い方なんかから、このような言葉にし難い感情が伝わってくるのです。
それを見た読者は、生い立ちも性別も全く共通点のないキャラクターにどうしようもなく感情移入してしまうのです。
以下、先生の作品の中から特に筆者の心を震わせたシーンを厳選してご紹介します。
「囀る鳥は羽ばたかない」1巻より 漂えど沈まず、されど泣きもせず
BL界の歴史に名を残すであろう不朽の名作
「囀る鳥は羽ばたかない(以下、囀る)」の前日譚にあたるお話です。
囀る本編が始まる前に、読み切りとして連載されました。
主人公である「矢代」の人となりが分かる、囀る本編を理解するうえで欠かせないストーリーでしょう。
このお話は、
自室の窓に腰掛け、室内を呆然と見つめた矢代が、突如激しく泣き出すという場面で終わっています。
ここで矢代が泣いた理由は、この場面の直前、学校の屋上にて
同級生であり、思い人でもある「影山」に
「お前は一人だからだ」
と言われたからですね。
しかし、矢代は言われた直後は大笑いしており、帰宅後もしばらく平然としています。
なぜ矢代はあのタイミングで泣きだしたのでしょうか?
それは、
親が帰ってきた形跡はあるのに、自分1人しかいない部屋を眺めて
「自分は一人だ」と認識したからでしょう。
そして、影山から言われた言葉を思い出し、初めて理解したからです。
そこで矢代は、これまで堰き止めていた堤防が崩れたように、大粒の涙を流して泣くのです。
言語化できない感情が、こらえられなくなってどっと溢れたのだということが読者に伝わります。
ただ言われた言葉が胸に突き刺さり、悲しい、苦しいというだけではないのです。
私はこの話を読んだ際、矢代を思って涙すると共に、
言葉を尽くして説明されなくても、これほどまでに感情の機微が表現できるものなのかと感嘆しました。
このシーンは、ドラマCDにて非常に素晴らしい表現をされています。
↓こちらの記事で詳しく記載しています。
「それでも、やさしい恋をする」より
「それでも、やさしい恋をする」は、ゲイの主人公「出口」さんが
紆余曲折を経て、3年間片思いしたノンケの「小野田」と結ばれるというお話です。
長くて苦しい片思いではありますが、普通のサラリーマンが繰り広げる、どこまでもやさしい恋模様が魅力ですよね。
私が今回ご紹介するのは、出口さんが意を決して小野田に告白した後の場面です。
(以下簡単に状況説明)
小野田に思いを伝える決意をした出口さんは、小野田宅の前でタバコを吸いつつ、残業をしている小野田の帰りを待ちます。
出口さんの所持していた携帯灰皿がパンパンになった頃(それほどのタバコを吸うほど時間が経過した)、仕事を終えた小野田が帰宅します。
2人は部屋に入り、出口さんはついに不器用ながら思いを伝えるのですが、自分たちはただの友人関係だと思っている小野田には伝わらず、告白は失敗してしまいます。
耐えられなくなった出口さんは、小野田宅を飛び出してしまうのです。
小野田は出口さんの様子がおかしいことには気が付いていますが、その理由は全く理解していません。
出口さんが部屋に忘れていった携帯灰皿を見た小野田は、
「またこんなに吸って...」
というようなニュアンスの発言をします。
そうです。
小野田はただただ出口さんがヘビースモーカーだと思っているのです...
なぜなら、それほどのタバコを吸うほどの時間、友人が自分を待ち続けていたなんて小野田には想像できなかったからです。
その後、携帯灰皿を届けるのも兼ねて、出口さんを追いかけた小野田は、
今度こそ出口さんの抱えてきた自分への思いが「恋心」であることを理解するのです。
そして、出会ってから3年にもわたる出口さんとの思い出を回顧し、
自分が気が付いていなかっただけで、出口さんの言動の節々から自分への好意が溢れていたことに気が付きます。
そして、出口さんの手の中のパンパンになった携帯灰皿を見て、自分の事が好きだから、これほどタバコを吸うほど待ち続けていたのだと気が付きます。
小野田にとっての携帯灰皿の意味合いが、出口さんの気持ちを知る前後で変わっているのですよ…
結局小野田は、自分の気持ちに整理がついていないのにも関わらず、自分から離れようとする出口さんを引き留めてしまうのですよね。
頭の中がぐちゃぐちゃで、考えは何もまとまってないけれど、それでも思わず出口さんの手をつかんでしまったのです。
小野田の中に芽生えた感情と、そこにいたる過程は複雑ですが、何となく理解できませんか?
以上、筆者の特にお気に入りの場面を2つご紹介いたしました。
言葉での説明はいらない、感覚的に理解させるような表現を、なんだか筆者が無理やり言語化してしまった感じになりました…笑
ほんの少しでもヨネダ先生の魅力をお伝えできていると嬉しいです。
ヨネダコウ先生の作品に少しでも興味を持った方は、是非読んでみてくださいね!
今回は2作品にしか触れていませんが、他の作品も本当に面白いのですよ。
Op‐オプ‐ 夜明至の色のない日々(1) (イブニングコミックス)
ここまでご覧いただきありがとうございました!